僕が入社した印刷会社は、業界の中でも印刷することに重きを置いており、製本や断裁といった加工については、ほとんど外部に委託している。
そして僕が所属していた部署は、営業部から送られてきた伝票のチェックを行い、必要分コピーを取って現場に回したり、外部の加工先にFAX等で連絡する。業務の基本的な流れはこんな感じだ。
その他の雑務として、現場の人が製造した印刷物をストレッチフィルムを使って梱包する。 どう足掻いても姿勢が良いまま梱包することはできないので腰をやられてしまう。万が一ギックリ腰にでもなればその後の人生が破綻すること間違いなし。
元々僕は現場で入社したのだが、案の定、あまりにも職場環境がキツすぎたし、人間関係も職人気質な感じの人が多かったので、話しかけること自体が億劫になっていった。
仕事においては、延々と印刷機の作業工程を眺めていただけだった。
紙をパレットに積み込んだり、印刷物の目視検査をしたり、掃除を手伝った程度で、それ以外は一切働かない背後霊という感じだった。
あまりにもキツく将来性もなかったので、2ヶ月目で辞めようと決心した。毎日ズル休みするための口実を考えていたほどだったので、今でも間違ってないと言い切れる。
その旨を社長に言ったところ、話は退職から部署異動の方向に切り替わっていった。
紆余曲折を経て、僕は現場から他部署に異動ということになった。
異動先でクビを告げられる
しかし結果として僕は、その異動先の部署を、会社をクビになってしまった。
コロナ騒動でいろんなイベントが自粛され、すごく気が滅入っていたところを諭旨解雇でトドメを刺された。
クビになった理由としては以下の通り。
①協調性やコミュ力がなかったこと
②業務上必須な車の運転に消極的だったこと
③短期記憶が弱く、言われたことは全てメモに取らなきゃ覚えられないこと
④何事にも興味を持てない性格だったこと
一番仕事に支障が出たのは③で、僕は生まれつき人から言われたことを記憶する力が著しく弱い。
短期記憶の弱さ
総務の年配の女性からちょっとした雑用を任されたことがあり、僕はその人からこう言われた。
「タバコを捨てる缶を取ってきて欲しいねん。自動販売機の近くにあるけど、知ってると思うけど自動販売機って社内に2台あるやろ。缶類を捨てる袋が近くにある自動販売機の方にそれがあるから取ってきて」
と言われてもチンプンカンプンなのである。
結果、僕は「缶類を捨てる袋だけ」を持って来てしまい、他の社員から失笑を買ってしまった。
最初の「タバコを捨てる缶」というワードが脳内から零れ落ちていた。
僕は他人のおつかいすらまともにこなせない無能なのだ。
メモを取らせてくれない
僕自身、短期記憶の弱さをカバーするためにメモを持参している。言われたことを記憶するのにうってつけだ。
ところが直属の上司から
「そんなことでメモ取るな」
と、メモを取り上げられたのだ。
短期記憶の弱さを少しでも克服するためにやっているのに、この仕打ちはあまりに酷い。
メモを取れないなら、分からないところは聞き返すしかないと思い、聞き返したところ
「二度も同じこと言わすな」
と叱責され、さらには
「幼稚な質問をするな、常識的に判断しなさい」
と言われたので、もうどうすることもできなくなった。
この一件で僕は、分からないことがあっても人に聞き返したり、メモを取ることができなくなった。
そんなある日、僕は他部署の人からダンボールを取ってくるよう言われた。印刷物の梱包に使うのだそうだ。
僕はその取ってくるダンボールの特徴について聞いたのだが、短期記憶の弱い僕には一度ではよく理解できなかった。相手の説明も悪かったしね。
「そんなことでメモ取るな」
直属の上司から言われたことがトラウマになってしまっていた僕は、人の話を聞き返したりメモを取るという行動が取れなくなっていたのだ。
さらに運送便が来る直前ということもあり、気持ち的にもテンパっていた僕は、具体的な用件も分からないままダンボールを取りに現場に向かった。案の定、手ぶらで戻ってきてしまい、相手から厳しい叱責をされる。
「えぇ…!? お前何考えてんの…!!??? 分からんとこあったら聞けよ!!! そんな常識的なことできない人間、どこも雇わないよ…!!!??」
どこも雇ってくれないならこの先の人生、生活保護で生きていきます。あんたら健常者が汗水垂らして働いて納めた税金で。
この日以降、僕に回ってくる仕事はなくなった。僕は社内ニートになったのだ。
すでに幹部の人たちの間で、僕を解雇するか否か会議がされていたらしく、結果はもちろん前者。
僕は会社にいらない存在となったのだ。
ぶっちゃけた話
アニメキャラの視線に晒されながら仕事したくなかった…
印刷会社ということで、当然ながらアニメキャラの印刷物だってたくさんある。
入社する前は
「え、何コレすごーい!!」
なんて思っていた。
しかし実際は、仕事でミスして上司から怒られると、自分の惨めな姿をアニメキャラに見られていると感じてしまい、辛くなっただけだった。